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爽快倶楽部編集部


2015.12.1
一草一花
「一草一花」、講談社文庫による「現代日本のエッセイ」の中の川端康成によるエッセイをまとめたものである。この中に「旅だより」という一節があり、伊豆の湯ヶ島のことが書かれている。それは、「伊豆の温泉はたいてい知っている。山の湯としては湯ヶ島が一番いいと思う。」と始まる。川端康成には、「伊豆の踊り子」「雪国」などをはじめ多くの名作があるが、今、それらを思い出してみると、彼の文章には、この文章のように非常にリズムがある。伊豆の踊り子は「道がつづら折りになって、いよいよ天城峠に近づいたと思う頃、 雨脚が杉の密林を白く染めながら、すさまじい早さで麓から私を追って来た。」で始まる。また、雪国は「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった。 信号所に汽車が止まった。」で始まる。これは、彼がいうとおり、あつかうテーマはまったくことなるが、文体においては、かって志賀直哉を小説の神様として耽読した経験によるものかもしれない。
こうした文章力は、それぞれの小説家独特のものであろうが、それを培った教養の背景を考えると、彼らの学生生活の質によるものと思える。
今、大学の学部編成として人文科学無用論が風潮としてある。もちろん、文学部があるから立派な小説家が生まれるとは限らないが、それが、小説家を生む揺りかごになっているように思う。小説に限らず、詩歌などの文学は、人のこころを豊かにするものである。最高学府に文学部や、他の人文科学は必要であり、それはこころ豊かな社会のための要請でもある。
「一草一花」を読みながら、川端康成、志賀直哉、夏目漱石、芥川龍之介、谷崎潤一郎などの明治、大正、昭和に残された名作を味わいたい、そう思った。




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